Mさん 神奈川県在住 20歳代前半 血友病B(中等症)写真はイメージです。
卒業を数か月後に控える大学生のMさん。次の4月からはIT企業で働くことが決まっています。趣味ではバイオリンを奏で、友達とはグランピングを楽しむなど、大学生活もばっちり満喫。病気であることを感じさせない楽しい毎日を過ごしています。
*2023年11月取材
週1回の自己注射は少々手間と時間がかかりますが、それ以外はいたって普通のキャンパスライフです。就職先はIT企業で、4月からはプログラミングの仕事に携わります。大学で学んだ情報系の知識が生かせる仕事ですし、将来はプロジェクトを統括してみたいという目標もあるので、働くのが今から楽しみです。
プライベートでは今後、社会人向けのフットサルやテニス、スキューバダイビングなどにも挑戦してみたいです。どちらかと言えばインドアで楽しむタイプだったのですが、せっかく社会に出るので、最近はいろいろなことを経験してみたいと考えるようになりました。健康第一を考えながらも、幅広く人生を楽しむことができればと思っています。
病気を意識したのは、たしか小学生のときです。「血が止まりにくいんだなぁ」くらいで、深刻さはほぼゼロ。もちろん親からは激しいスポーツを避けるように言われていました。ただ、体育の授業は普通に参加していましたし、休み時間には友達とよくサッカーをして遊んでいましたね。
治療は基本的に、出血時のみの通院という形でした。平日に学校を休んで通院することも多かったので、大変さを感じたこともあります。中学生のときには、運動会や競歩大会などのイベントごとに足の指を内出血していたので、都度通院するのは少し煩わしかったです。それでも、これまで病気で思い悩んだことは1度もありません。重く受け止めすぎないことはメンタル的にとても大切だと思っています。
大学進学を機に地元を離れ、ひとり暮らしを始めました。このタイミングで治療も変化します。引っ越したので当然、主治医の先生も変わりました。その先生から「大学生活では活動範囲が広くなるし、出来ることが広がるよ」と、定期補充療法のための週1回の自己注射を勧められたんです。
新生活に慣れるだけでも大変なのに、自分での注射は非常に不安でした。それでも、通院で時間をとられることもなくなるし、思い切って決断しました。以前までは投与中に薬の充填作業が必要だったのですが、1度で済む薬に変えてもらえるとのことだったので、それも背中を押してくれました。少し入院して何度か練習し、できるようになってからは、あとは慣れでしたね。今では何も問題なく自分でできています。
趣味は、バイオリンです。中学で部活を選ぶときに、オーケストラ部で体験させてもらったのをきっかけに好きになりました。それから高校まで6年ほど習って、今でも時間があるときは弾いています。大学では軽音部に入りました。バンド形態でも弾いてみたいと思ったのですが、コロナの影響でほとんど活動できなかったのは残念です。
小さい頃から好きなのはゲームですし、自分は完全にインドア派だと思います。病気のことはまったく気にせず楽しめるので、ある意味ラッキーですね。それに、バイオリンは指や腕をけっこう動かすので、意外といい運動にもなっているのかなと思います。
大学生活では、友達とご飯に行くのが一番楽しいですね。美味しいものを食べながら他愛もない話をする時間は最高です。今は就活も終わったので、卒業に向けて、卒業研究の実験や論文執筆に力を入れています。
病気のことは、友達やアルバイト、就活などでもほとんど話すことはありません。高校の修学旅行のときに1度だけ班のメンバーに伝えたことはありますが、その程度です。日頃の注射が少し手間なだけで、あとは普通の大学生として、普通に毎日を楽しく過ごせていますので。
今ある薬だと、凝固因子活性が病気でない人と同じ値までは上昇しないと聞いています。詳しくはわかりませんが、今後はそこがよりよくなれば嬉しいです。あと自分はもう慣れましたが、自己注射の手間の削減は多くの人にメリットがあるので、そのあたりも期待したいです。
とは言え、今は注射さえしていれば何不自由なく暮らせているので、主治医の先生や薬のメーカーさんには、感謝しかありません。もうすぐ社会人生活が始まります。これからも、病気の心配はほどほどにして、自分なりに人生を楽しんでいければいいと思っています。
私の人生の楽しみ方
インドア派ですが、
友達とのグランピングは最高でした!
先日、連休を利用して人生初のグランピングに行きました。友達とドライブしながら山梨県まで行き、火起こし体験にBBQ、たき火を見ながら自然の中で語り合うなど、想像以上に楽しい時間でした。
普段はインドア派ですが、友達から誘われて行ってみると「こんなに楽しいんだ」という新たな発見になりました。人生には、まだまだこんなことがたくさんあるんだろうと思います。今後も病気だからといって自分から可能性を狭めずに、機会があればいろんなことにトライしていきたいです。
聖マリアンナ医科大学 小児科学 名誉教授 瀧 正志 先生
M君は横浜の大学入学を契機に地方から紹介された中等症の患者さんです。幸いに関節障害はなく適切なオンデマンド治療が行われていたと推察されました。最初に母親と一緒に来院されたときは、これからの一人暮らしに対する不安と大学生活への期待が入り混じった雰囲気を記憶しています。自己注射が実施されていない事には少し驚きました。早速、血友病に対する理解度の確認や不足していた知識の整理をしてもらい、これからの自立に向けて、自己注射を習得することを勧めました。来院されるたびに大学生活をエンジョイされている様子がみられて、彼の人生のターニングポイントに上手く関わることができて良かったと思います。定期補充療法を始めているので、これからは安全なスポーツも積極的に楽しんで下さいね。
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 小児科 副部長 山下 敦己 先生
Mさんは大学進学で横浜に転居され、当院に紹介受診となりました。Mさんは血友病Bの中等症で、それまで出血時補充療法を行ってこられ、幸いにも大きな出血を経験したことはありませんでした。しかし話を聞いてみると「これまでいろいろな活動を制限してきた」、「大学ではヨット、フットサルなどやってみたいことがある」と仰っていたの良く覚えています。我々は、安心して色々なことにチャレンジできるようにと定期補充療法を提案しました。新学期まであまり時間が無かったので、数日間入院して、血友病の勉強と自己注射の練習を短期集中で学んで頂きました。初めて親元から離れて生活するタイミングで大変だったと思いますが、よく決断されたと今でも感心しています。その後の4年間、無事に大学生活を過ごすことができて良かったですね。思い描いていたような生活を送ることはできたでしょうか。私は外来でお会いする度に徐々にシティボーイに変身していくMさんをみて、大学生活を楽しんでおられるんだろうなと微笑ましく見ておりました。
血友病の治療は、様々な治療薬の開発により、患者さんが自分の生活スタイルに合わせて治療を選択することが可能な時代になりました。患者さんはそれぞれのライフステージにおいて様々なチャレンジの場面があるかと思います。血友病を理由に目標を諦めなければならないことがない様に、我々がお役に立てたら嬉しく思います。
※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2024年10月時点の情報です。
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