Aさん 北海道在住 未就学児 血友病B(重症)写真はイメージです。
現在幼稚園に通うAさん。車や電車のおもちゃで“街”を作る遊びが大好きで、日々熱中しているそうです。今回は、Aさんの普段の生活から将来のことまでを、ご両親にお話ししていただきました。
*2023年10月取材
現在、週1回の定期補充の自己注射を行っていますが、おかげさまで、幼稚園では他の子とほとんど同じように普通に遊べていますし、家でもおもちゃ遊びやゲームをして日々楽しく過ごしています。
心配事を挙げればきりがないのですが、まずは目の前のことを楽しんでほしいと思ってサポートする毎日です。親としては、将来病気のせいでやりたいことを制限されることがないようにしてあげたいと、願うばかりです。
産まれてすぐの採血で、血が止まらなかったんです。産婦人科の先生から血友病の疑いがあると聞き、私たち2人は混乱、不安、涙と、気持ちが追いつかない状態に。どんな病気かを知らなかったので、なおさら不安は大きかったですね。病院から診断を受けたときの絶望感は相当なものでした。
2人目の子だったので子育ての大変さはなんとなくわかっていましたが、それでも日常生活はかなり神経質になりました。どこかにぶつからないようにとか、歩き始めたら膝や肘にサポーターを着けるとか、子どものあらゆるリスクを常に先回りして考える毎日です。2歳のときに足を踏み外して自分で舌を噛んで切ってしまったことはありましたが、今のところそれ以外は大きな問題もなく過ごしています。
定期補充を始めたのは、生後半年あたりからです。その後先生から勧められてポート型の中心静脈カテーテル留置の手術を受け、家庭での自己注射を行っていましたが、最近になって主治医の先生から「薬の単位を上げるので、違うお薬に変更してみませんか?」とお話があり、週1回の投与で済む薬に変わったんです。自己注射はゆっくりと打つように言われていますし、準備から片付けまで入れると30分くらいはかかります。それが今は注射の回数が減ったので、すごく助かっています。何よりも子どもの負担も減っているようですので、本当にありがたい限りです。
縄跳びやマット運動など、よほど激しくぶつかるようなものでなければ幼稚園では他の子と同じように遊んでいます。よく自分で作った紙ヒコーキなどの折り紙を自慢気に持って帰ってきます。基本的には何でも楽しく取り組んでいるようで、親としてはひと安心です。
もちろん、強くぶつかったときや出血があったときはすぐに連絡をもらうようにしています。日中激しく動きすぎると夜になって「足が痛い」と言うこともあるので、そんなときはちょっとだけ心が痛みますね。なので、運動会などの前には先生に相談して、激しい運動による出血などで痛みが生じないように予め注射を打つようにすることで対応しています。どんなことでもなるべく痛みを感じずに全力で楽しんでほしいですから。
車と電車のおもちゃが大好きで、暇さえあれば部屋の中に“街”を作って走らせていますね。「今日はこの形にした」と、まるで日課のように取り組んでいます。車にも詳しくなって、街中で見かけた車の車種を親に教えてくるんです(笑)。最近はものづくり系のゲームにもハマッています。1人で集中して黙々と取り組むことが好きなようです。
病気のことを考えるとどうしても室内遊びが多くなるのですが、先日ついに補助輪なしで自転車に乗れるようになったんです! 怪我のことを考えると少し躊躇もしましたが、本人が「乗りたい」とのことだったので、よく注意しながら練習しました。子どもの挑戦の背中を押してあげるのは、親としての務めだと思っています。
この子の人生はまだまだ先が長く、その間に薬などの医学的な進歩があることを大いに期待しています。例えば、血友病Bにも静脈注射ではなく皮下注射で投与できる薬が開発されるとか、定期補充の間隔が少しでも長くなるとか。もっと言えば、将来的に日本でも遺伝子治療などで治せるようになることも願っています。
すべては、本人がこれから成長してやりたいことが出てきたときに、病気によって制限されないようにしたいからです。「こう育ってほしい」などという理想像はありません。少しでも辛い思いをすることが減ってほしい、ただそれだけなんです。そのために今後も親として全力でサポートしていきたいと思っています。
親として大切にしている考え方
感謝の気持ちが、幸せにつながっている。
最初に診断を受けたときは、本当に絶望しました。でも少しずつ知識が増え、生活にも慣れてくると「意外と普通に暮らしていける」という感覚も持てるようになりました。世の中を見渡せば、病気の他にも人間関係で悩む人、戦争をしている国に至るまで、暮らしの状況は本当に人それぞれです。もちろん苦労も多いのですが、悲観しすぎることはありません。私たちは私たちなりの、この子はこの子なりの幸せを手に入れることが大切なんだと思います。
心がけているのは、感謝の気持ちです。この病気についても、昔の患者さんたちが声を上げてくれて、難病指定されたおかげで、私たちは治療費に悩まされることなく、安心して治療を受けることができているんです。感謝の気持ちがあれば、小さな幸せが見えてきます。先ほど子どもの理想像はないと話しましたが、やっぱり1つだけ。「ありがとう」がちゃんと言える子には育ってほしいですね。
北海道大学病院 小児科 診療講師 長 祐子 先生
A君のお母様がとても不安そうな面持ちで初めて私の外来に来られたときのことをよく覚えています。先天性代謝異常症などを調べるマススクリーニングのために、私たち小児科医は新生児の踵を少し傷つけて採血をするのですが、ご紹介元の先生はこのときの血が止まりづらいことにきちんと注目し早めにご紹介くださいました。しかし、生まれたばかりの大事なお子さんにご病気があるかもしれないと告げられたご両親様の戸惑いはどれほど大きなものだったでしょうか。本当に病気なのか、間違いではないのか。当院での精密検査の結果、血友病Bだと確認され、ご病気のことや今後の方針をお話している間もお母様は言葉少なにただ頷いておられました。
自分で動き回る月齢になったら予防的な第IX因子定期補充療法をしましょうとお伝えし、小さな体の細い見えにくい血管を探して何度も針を刺さなくても良いように、またご自宅でも自己注射ができるように、ポート型の中心静脈カテーテル留置をお勧めしました。お母様はとても熱心にポート穿刺を練習され、あっという間に手技を獲得されました。ご自宅ではお父様がA君の体を固定して、お母様がポート穿刺をするという連携プレーとのこと。病院に来ると担当医の私を(怖いことをする人だ!と)と訝しげに見つめるA君もお母様のポート穿刺の時にはじっとしていました。幼稚園生になると『階段を数段落ちました』などヒヤリとする報告を受けることも増えましたが、ご心配な時には都度ご相談をいただき、ご両親様と力を合わせながらA君を見守ってきました。
来春は小学一年生。お友達といろんなことを楽しんで欲しいですね!そのためには私たち医療者が血友病の管理に関する知識を常にupdateし、いつでもアドバイスや必要な対応ができるようにしておかなければならない、と気持ちを新たにしています。
※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2024年10月時点の情報です。
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