体は動くうちに動かすことが大切!
現在は“週8”で水族館を楽しんでいます。

Aさん 北海道在住 60歳代 血友病A(重症)
インヒビター保有写真はイメージです。

●プロフィール

人生のセカンドステージを満喫中のAさん。現在は手足の関節症に不自由を感じながらも連日水族館に通い、できる範囲で体を動かしながら日々を楽しんでいます。これまで患者会活動に力を入れてきた期間も長く、患者仲間を想う気持ちは人一倍強いものがあります。

*2025年2月取材

マラソン大会にも出たし、生コン運びの仕事もした

仕事はもう引退してしまったので、今は悠々自適の日々です。とは言ったものの、足の具合が思わしくないため、最近は体の負荷が比較的小さい「水族館通い」を日課にしています。家でじっとしているのが昔から苦手でして。
私の信条は「体は動くうちに動かす」です。小学校では体育もマラソン大会も全部参加しましたし、仕事は家業の土建業に就き、スコップで穴を掘ったり重たい生コンを運んだりしました。私もそうですが、関節の障がいなどにより体が不自由になってしまった患者は、残念ながら一定数います。それなら、そうなる前にできるだけ楽しんでおく。何より、体を動かすことは気持ちいいですからね。

親が悲観的でなかったのは救いだったかもしれない

幼少期、血友病の治療方法は全血輸血しかない時代でした。少し離れた大学病院まで行く必要があり、治療はまさに1日仕事。しかも出血直後は猛烈な痛みで動けず、三日三晩ほぼ眠れずに泣き続け、ようやく腫れが治まる頃に治療に行けるのです。小学生までは3か月に1度ほどのペースでこれでしたから、相当大変でしたね。
当時サマーキャンプに行くと、お医者さんからは「長くは生きられない」と聞き、年長の参加者を見れば体を動かせない人ばかり。子どもながら「結婚しないほうがいいな」などと考えていましたね。ただ唯一、親が悲観的でなかったのは救いだったかもしれません。「体が動くうちになんでもしなさい」という方針でしたので、野山を駆け回るなど活発で、お医者さんを困らせていたような気がします(笑)。

皮下注射の製剤に変わり、さまざまな簡便性を実感

中学生になった頃からクリオ製剤、第8因子製剤と、薬剤による治療ができるようになり、負担もぐっと減った実感があります。自宅での自己注射も可能でしたが、インヒビター保有の私にはある程度の量が必要でしたので、近所の病院で注射してもらっていました。それでも、全血輸血と比べれば随分ラクになったと感じたものです。
時は流れ現在は、皮下注射を自身で行っており、出血傾向も以前と比べると改善されました。これまでは肘が痛むなか、お薬を溶かしたり、静脈を探したりするのでさえひと苦労でしたが、それらが改善され簡便になりました。本当にありがたい限りです。

水族館で、観光客との会話や知識の習得を楽しむ

体を動かすことが好きなので、調子がいいときはよく釣りや山菜取りなどをしていました。ただ今の足の状態だと、自然の中などの段差や傾斜が多い場所は厳しいおそれもあり、近年の趣味はもっぱら水族館通いです。ペースは週8日くらいかな(笑)。魚が好きなことに加え、最近は観光客とのちょっとした会話を楽しみにしています。なにしろ館内にずっといるので、時折スタッフと間違えられて魚のことを質問されることもありまして。答えてあげるととても喜ばれるので、ついつい詳しく話してしまうんです。当然わからないことは私もスタッフの方に聞きますし、それはそれで自分の知識になりますから、やはり面白さを感じますね。できる範囲で楽しむことは、何歳になっても大切だと思います。

血友病根絶のその日まで、医療の進歩を願い続ける

全血輸血でしか治療できなかった頃を知る私にとって、夢のような時代になりました。実際に今は健常者と同じような生活ができている患者も多いことでしょう。ただ、ここに辿り着くまでには、多くの患者仲間が適切な治療を受けられず命を落としてきたことも事実です。そうした人々がいたからこそ今がある、ということを忘れないでいたいですね。
医療にはまだまだ進歩の余地があります。使用間隔が少しでも延びればうれしいですし、いずれは飲み薬に、という期待もしています。もちろんその先を言えば、血友病が根絶される日の到来を願ってやみません。

情報は、主治医の先生や患者会から得るべし

先のことはあまり思い浮かばないのですが、強いて言えば、体の調子がよくなったら釣りにでも出掛けたいですね。あと個人的には長年患者活動に力を入れてきたので、特に若い世代の患者に少しでもいい未来を残せていればうれしく思います。
現在も治療薬は高価ですし、そのときの政策によっては患者負担が発生する可能性があります。他にも緊急時の薬の確保や安全性の問題など、患者の懸念は尽きません。そのため常に適切な情報を得ることが大切ですが、安易にネットの情報を鵜吞みにすることだけはやめましょう。ぜひ主治医の先生や患者会の情報に、耳を傾けてほしいと思います。本当に患者のためを思った声が、そこにあるはずですから。

これからの世代に伝えたい3つのメッセージ

一にも二にも薬の安全性!

薬は自分の体に入れるものですから、安全が第一です。自身が薬害エイズ事件を知っている世代だからこそ、今一度強く伝えたいです。

学童期の交通事故に注意!

医療の進歩を受け、学童期の患者が外で元気に遊ぶ機会は増えています。ただその分、健常者と同様に交通事故に遭うリスクは高まってしまうとも言えます。病気ばかりでなく、車にも注意は必要です。

体は動くうちに動かす!

歳を重ねれば誰でも、体に多少の不自由を感じると思います。だからこそ今このときに、できることを全力で楽しむことが、後悔のない人生につながっていると思っています。これは病気の有無は関係ないですから、より広く伝えたいことですね。

医師からのメッセージ

札幌徳洲会病院 小児科主任部長 / 血友病センター長 金田 眞 先生

インヒビター陽性のためこれまで治療に苦労してこられていました。出血回数も多く、多関節の関節症もあることから、活動にもかなり制限がかかっていました。一時期、他の製剤での治療が軌道に乗り満足度も高かったのですが、残念ながらその製剤を使用できなくなったことから再度出血を繰り返すようになり活動性もより低下しました。その中で、現在の治療を開始したところ出血症状は落ち着いています。連日の注射は必要ですが、それを上回る簡便さがあり、短時間で準備・注射まで可能です。肘関節の拘縮のために静脈注射は困難となっていますが、現在の治療ではまったく問題なくこなせています。症状は落ち着いており、これまでであれば少しぶつけたくらいでも皮下出血が広がりましたがそれもみられないようです。現在の治療を開始してから「出血がなさすぎて退屈だ」などと外来でおっしゃっていますが、Aさんの治療満足度の裏返しでもあり、現在の治療をすすめてよかったとホッとしています。

看護師からのメッセージ

札幌徳洲会 血友病センター 土谷 貴子 さん

Aさんは、一度出血すると数回にわたり補充療法を行う必要がありましたが、加齢と共に自己注射が難しくなってきていました。更に右肘の血友病関節症の進行も加わり、注射してほしいと病院を受診することが増えていきました。そこで、Aさんの、生活状況・年齢・活動性等考え皮下注射製剤をお勧めしました。ペン型注入器で製剤と一体化しており、コンパクトで持ち運びしやすいので気に行ってもらえたのかなと思います。
皮下注射製剤に変更してから出血なく過ごせています。趣味の水族館通いを続けられています。Aさんは、受診時に水族館での出来事を楽しそうに話してくれます。

 

 

※一部を除き、数字、組織名、所属、肩書等の情報は2025年6月時点の情報です。

JP25HRBD00019

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