「自然出血」はなぜ起こる?

宮城教育大学 障害児教育講座 村上 由則

 「これといった原因が見あたらないのに関節が腫れ上がっている」、「知らない間に皮下に紫斑(アザ)が出てい る」、といったことがよくあります。これは一般に「自然出血」と呼ばれ、子どもでも大人でも、血友病ではよく見られることです。しかし、「自然」出血とは いえ、血友病でも原因もなく出血することはあり得ません。出血には必ず原因があり、腫れや紫斑はその結果です。

 皮膚の下を網目のように広がる毛細血管の壁はとても薄く、日常でもよく破損、修復がなされています。例えば、テーブルをコンコンとノックしたり、拍手を する程度でも毛細血管からの出血が起こることがあり、通常は止血機能によりすみやかに止血されています。しかし、健常者ならば出血に気づくこともないまま 止血される程度のものでも、止血機能の働きが悪いという血友病の性質上、腫れなどが起きることがあり、しかもその症状が現れるまでに時間がかかるので、出 血の原因がますます分かり難くなってしまいます。

1.自然出血の原因
 「自然出血」とは、言い換えれば、ふだん予想していないことが原因となり生じる出血です。こ れに対処するためには、何日も前の出来事にさかのぼって、原因らしきものを細かく考えてみればよいわけです。

(1) 原因は「生活の中」にある
 関節の自然出血を中心に考えてみましょう。自然出血はとても微妙な、いわば些細な原因で起きるわけですから、原因の多くは日常生活の中にあります。過去の出血による関節内部の傷みの程度にもよりますが、イスから立ち上がるときの動作、立ったままでの作業、靴の素材や「かかと」部分の高さ、階段の昇り降りの時の動き方、床の凸凹などあらゆる要素が原因になり得ます。

(2)「いつもと異なる生活や環境」が出血の原因となる
 普段の生活パターンはほぼ一定しており、出血の発生も含め多くの事柄は予測可能で、意識的にせよ無意識的にせよ出血の危険を回避して過ごします。また、 普段の生活に必要な筋力や関節の動かし方などは、長い間に徐々に強化・習得されていきますから、大きな出血に至ることは少ないのです。
 ところが、「いつもと異なる」場面では、通常の生活とは違った姿勢や動きが要求されますし、いつもとは違うモノが生活の中で使われます。例えば、いつも バドミントンをやっている子どもさんが、卓球をしたことが原因で出血することもあります。いつもは履かない長靴を履いたことが原因で足関節に出血したりも します。これらに共通するのは、「いつもと異なる」ことです。旅先でのスリッパ、滑り易い床、高い段差などが、いつもと違った関節へ負担をかけ、動作を行 うことで「無理な力(負荷)」が生じ、弱い部分の出血を引き起こします。普段の生活環境ならば、身の回りの慣れ親しんだ環境やモノにより、十分緩衝・吸収 されるような「無理な力」も、残念ながら旅先など、慣れない環境ではそうはいきません。さらには、これまでの出血の繰り返しにより関節症を発症している と、短い時間で出血症状につながります。

2.「自然出血」を回避するために
 これまで見たように、関節の「自然出血」の原因は「いつもと異なる」動作や生活・行動パターン、環境条件の違いが多いようです。そこで、このような原因による出血(この時点では、すでに「自然出血」とは言えませんネ)回避するため、2つの方法を提案します。

(1) 環境の違いや弱い身体部位を十分に考えること
 もっとも大切なことは、出血が起きやすい部位とその環境を知ることです。例えば、おじいちゃん・おばあちゃんの家に行った折りに「自然出血」が多いなら ば、畳と布団の生活なのか、立ち上がったり座ったりすることが多いのか、スリッパの底のクッションなのか、いつもと違った遊びはしていないかなど。そし て、その環境と出血しやすい部位とはどんな関連があるかを考えてください。人気アトラクションの長い列に長時間並ぶ、法事で正座をするなど、無理をしてそ の状況に合わせていることが、出血の原因であることも多いのです。

(2)「慣れない環境」では製剤の予防投与を
 新しい環境では「出血する」ことを前提にして、その生活パターンに慣れるまでの治療について、予防投与などを含めて主治医の先生に相談しましょう。しか し、主治医の先生も出血の原因が環境条件や、慣れない生活によるものなのかを判断するのはなかなか難いでしょうから、どのように環境が変化したのかなどの 理由をきちんと説明しましょう。なお、旅先などから通常の環境に戻った時にも、「いつもの家だから」と安心するのは禁物です。戻ってくる途中や、戻った 「いつもの」家も、身体にとっては一時的には「新しい環境」です。

  血友病の自然出血について述べてみました。もしも、自然出血が起きるようなら、2・3日前の外出先や生活に思いを巡らせてみてください。たぶん原因らしきものに気づくはずです。
 




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