血友病と歯科 −歯周病−

広島大学病院 歯周診療科 吉野 宏

日常で気をつけなければいけないのは、虫歯だけではなく歯を支える歯ぐきの健康も同じです。まず、歯周病と呼ばれる「歯肉炎」と「歯周炎」の状態の違いを説明しましょう。

◆ 歯肉炎

歯肉炎は歯ぐきの上の方にプラーク(プラーク・歯垢しこう・・・口の中に残った食べかすに細菌が増殖し、歯にこびりついたもの)が付き、歯ぐきが炎症を起こした状態です。
歯の周囲のプラークや歯周ポケット(細菌から歯ぐきを守るために、免疫反応が起こります。この免疫反応によって作られた酵素が歯と歯ぐきをつなぐ組織を壊してしまい、溝(ポケット)となります)によって

1. 歯肉が赤くなったり、少し腫れたようになったり、
2. 歯磨きの時に出血

したりします。

◆ 歯周炎

歯周炎は歯肉炎が進み、歯の根の回りの膜(歯根膜しこんまく)や歯を支える骨(歯槽骨しそうこつ)まで破壊してしまう状態です。

1. 軽度
  歯周ポケットの形成や、歯周ポケットの中に歯石(唾液中のカルシウムなどで歯垢が石灰化したもの)ができたり、歯磨きによる出血を認めます。
2. 中等度
  細菌が歯周ポケットに深く入り込み、炎症が進むと歯周組織が壊され、歯を支える骨(歯槽 骨)もなくなっていく(炎症部位に破骨細胞という骨を食べてしまう細胞が集まります。これを骨吸収といいます。)ので歯が動き出します。また、歯周ポケッ トから膿がでることもあります。さらに自然に出血することもあります。朝起きた時に口の中に血の固まりがあることもあります。
3. 重度
  歯周ポケットに繰り返し膿がたまって歯ぐきが腫れ、さらに進むと歯が自然に脱落します。


歯周病によるトラブルと製剤の必要性

歯茎は小さい血管が多くある場所なので、少しの傷でも多くの出血を認めます。しかし、血管が小さいのでよく止まります。

1. 歯肉炎や軽度、中等度の歯周炎を治療する場合
  歯肉縁周囲(歯と歯ぐきの境いの上下部分)および歯周ポケット内(歯と歯ぐきの間)のプラ—クや歯石を除去する際によく出血しますが、ほとんどの場合製剤を投与しなくても止血します。
2. 中等度から重度の歯周炎を治療する場合
  炎症の急性化による膿瘍に対する処置を行う際や、処置後に出血することがあり、製剤の投与を行っておいた方が安心です。 トランサミンを服用する事もお勧めします。
そして、抜歯した場合に注意しないといけないのは、抜歯後、1週間から10日後に再出血する場合が多いようですので、抜歯した場所を部分入れ歯のような「シーネ」というもので覆っておく事が有効とされています。

 

 このように、歯周病も虫歯と同じで、重症度が進むほど治療時の出血の可能性が高くなり、出血に対する対応や予防に気を使わなくてはならなくなります。一 番良くないのは、歯磨きをしていて出血した時に、さらなる出血を恐れてそこを磨かなくなる事です。その結果は悪循環を生み歯周病の悪化をまねきます。歯磨 きをしていて出血した時は、すぐにかかりつけの歯科医院に行って診てもらいましょう。
 ここでも、早期発見・早期治療が非常に重要である事がお分かりいただけると思います。
 

一般歯科の先生方へ

血友病の患者様だからと言って、過敏に反応して、大きな病院で処置しないといけないケースは非常に限られています。また、血友病の患者様は自分自身のこと を非常によく知っていて、病気に関してはお任せした方が間違いがないことが多いです。したがって、次回治療する内容をきちんと伝えて、出血の可能性を説明 しておけば、大丈夫です。抜歯時のシーネについては、歯科医師側だけがもっている情報です。
多くの血友病患者様が歯科医院を探しています。それは、すぐに診療を断られるからです。少しずつ、患者様と話し合って治療を行っていけば、全く問題ありません。是非、開業医の皆さんもちょっとの勇気を出して、治療してみてください。 そして、かかりつけ歯科医として、患者様の口腔衛生管理をしっかり行っていただくことが、患者様と先生方のお互いに利益をもたらします。




JP/HG/0617/0004