進学・就職したあなたへ ―高校、大学・専門学校、職場での生活について―

 人生の大きなイベントである進学や就職。多くの人が生活環境の変化や新たな人間関係の構築などを通して、さまざまなことを学びます。

 血友病患者さんたちにとって、進学・就職後の日常生活でどのようなことが起こり得るのか、また、どういう点に気をつければいいのか、名古屋大学医学部附属病院 血液内科の医師であり、血友病患者のお一人でもある鈴木伸明先生のお話を伺いました。


鈴木 伸明 先生

名古屋大学医学部附属病院
輸血部 助教

  


◆新生活を軌道に乗せるために

  高校や大学・専門学校への進学、そして就職。それぞれの段階で出血のリスクとの向き合い方は少しずつ異なります。特に最初の数ヵ月は、生活リズムをつかみ、新しい人間関係を形成する大切な時期。いつもより少し注意深く過ごす必要があります。

(1)高校生活

高校に入り、行動範囲や交友関係がこれまで以上に広くなった人がたくさんいると思います。一方で、これらが思わぬ出血の原因となることがあるので注意が必要です。たとえば、電車通学を始めた人の場合、階段の昇り降りなどで関節への負担が増えることがあります。また、身体面だけでなく、新たなクラスメイトとの人間関係の中で精神的ストレスから体調を崩して出血してしまうのも、この時期にみられる特徴です。

 新しい環境にできるだけ早くなじむには、初めに長期間休まないことが大切です。そのためには、

“慣れるまでは慎重に、
補充療法は輸注量や輸注回数を増やすなど”

心がけてください。高校生活ではそれまでと比べて授業の進度も速くなるため、今この時期にペースをつかむことがその後の3年間にもつながります。

  

(2)大学・専門学校生活

 受験勉強や部活動などに追われる高校時代にくらべ、大学や専門学校では比較的自由な時間が多くなります。その一方で、特に親元を離れて暮らし始めた人の中には、生活リズムが乱れてしまっている人もいるのではないでしょうか。

 しかし、気の緩みから自己注射を怠け、出血のたびに我流で注射を打つような管理をしていると、関節の変形を進行させてしまうかもしれません。自由の利く生活だからこそ、自己管理には気を引き締めて取り組んでほしいものですが、一方で、自分の可能性を試すことが出来る貴重な時期です。大いに青春してください。私もこの時期に部活動に打ち込んだりする中で、生涯の友人もでき、いろいろな価値観も変わりました。妻と出会ったのもこの時期です。

  

(3)社会人生活

 一転、社会人では、お金をもらって働く立場であるため、責任と同時により厳格な自己管理が求められます。欠勤や早退などで仕事に影響が出ないよう、

“最初のうちは補充療法をしっかり行い、
また、急な出血に備えて対応策を考えておくこと”

は社会人として必要な務めです。さらに、負荷の多い業務に携わる場合などは、いつ、どれくらい打ったらよいのかを常に意識して生活していきましょう。

  

インタビューメモ

「大学や職場の仲間との飲み会は参加してもよいでしょうか?」と鈴木先生にお聞きしてみたところ、「そういう場だからこそ話せることもあるし、コミュニケーションの輪を広げるためにも積極的に参加すべきと思います。」とのことでした。ただし、飲酒は20歳になってから、もちろん飲みすぎは禁物です。

  


◆軌道に乗った頃につまずかないために

 初めは慎重に過ごしていても、生活に慣れてくるとつい無理をしてしまうことがあります。疲労が蓄積し、再出血を繰り返すという悪循環に陥った場合、

“まずは立ち止まって、ゆっくり休むこと。
一度リセットしてから立て直すこと”

が必要です。中途半端な対応により、悪い状態がズルズル続いては能力を発揮できません。特に大きな出血を起こした時には、手厚い補充療法としっかり休むことが必要です。そしてもう一つ、自分自身が血友病患者であることを忘れないことも大切です。たとえ出血がなく体調が良好でも、過信して無理をすると大きなつまずきにつながることがあります。時には血友病である自分を冷静に見つめて、血友病である自分には何ができるのか?また、血友病である自分だからこそできることは何なのか?を考えることで、結果的にさまざまなことに挑戦できる可能性が広がるのです。

Note
無理をし続けると良いパフォーマンスを出すことができず、モチベーションも下がります。体と心、両方のケアのために、疲れがたまった時にはしっかり休息を取りましょう。

  

◆家族以外の人々との外泊に備えて

 自分をとりまくコミュニティーが家族中心だった少年期に比べ、青年期では部活動の合宿や入社後の研修、出張など、家族以外の人たちと外泊する機会も増えます。そのような時は事前に予備的補充をすることで、出血予防ができるというだけでなく、安心感を得ることにもつながります。しかし、それだけでは不十分で、

“製剤を持参し、出血した際にどこでどのように自己注射を行うか、ある程度下調べしておく”

ことも重要です。最近の製剤は冷蔵庫に入れておかなくても常温保存ができるので、そのメリットを十分に生かし、合宿や研修生活が充実するよう工夫してほしいと思います。

Note
団体部屋などで自己注射がしづらい場合、最近はホテルに「多目的室」などの部屋があるので、そのような場所を利用するのも一つの方法です。

  

◆人生の壁にぶつかった時

 青年期に一番多い悩みは、実は出血ではなく社会生活への適応のように感じています。注射の管理も含めて、あまりに親任せの育ち方をしてきた人ほど、この壁は大きいのかもしれません。そういう状況に陥らならないためには、

“中学生頃から少しずつ自己管理に取り組むなど、
徐々に自立していくこと”

が必要です。根底にはそうすることによって、血友病から逃げずに、血友病である自分を見つめる狙いもあります。また、中には血友病であることに悲観し、何事にも前向きになれず、社会にも適応していけない人もいます。私の座右の銘に

“欠点は直すのではなく、武器にしろ”

という言葉があります。これは私が尊敬してやまない元プロ野球選手の落合博満前中日監督の言葉です。血友病であることは、健康上は確かに欠点かもしれませんが、人生の大きな観点から見れば、利点かもしれません。実際に血友病であるからこそ、輝いている人はたくさんいます。皆さんにもそのようになってほしいと思います。

  

 鈴木先生はご自身の学生時代を振り返りながら、青年期のみなさんへのメッセージを一つ一つ丁寧に語ってくださいました。学業も仕事も趣味も遊びも、思う存分楽しめるのはしっかり自己管理ができているからこそ。心身のバランスを取りながら、有意義な生活を送りましょう。



小学校の入学式:

 左足関節が悪く、母親や先生におんぶされながら、松葉づえで入学。血友病であることを何度となく母親にあたりました。


大学の部活動にて(左が筆者):

 合宿中のひとコマ。はしゃぎすぎて徹夜明けなので、少し顔色が悪いですが・・・(いけないライフスタイルですね)
多くの人と交流する中で、血友病であることを肯定的に考えるようになりました。

  





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