血友病治療のガイドライン −ガイドラインとは?−

名古屋大学医学部附属病院 血液内科 松下 正

 血友病治療のガイドラインはWFH(世界血友病連合)や各国で作られており、現在日本でも専門医が中心となり作成が行われています。
 英国血友病センター医師会(United Kingdom Haemophilia Centre Doctors Organisation:UKHCDO)は2000年に血液凝固第VIII因子、第IX因子インヒビターの診断と治療に関するガイドラインを発表し、6 年が経った昨年の2006年、このガイドラインの初めての改訂が行われました。
 「ガイドライン」という言葉は時々耳にすることがありますが、いったいどのようなものなのでしょうか。今回の英国インヒビターガイドラインの改訂作業報 告(British Journal of Haematology, 2006, 133, 591-605)から、どのように作業が行われるのか、ガイドラインをどのように理解したらよいのかということを大まかに説明しましょう。

ガイドラインとは?
 Guideline-ガイドラインは日本語でよく「治療指針」と訳されますが、実際に治療を行う際にできるだけ客観的な根拠に基づいて治療の方向性を示 し、より適切な治療が行われる手助けとなるものがガイドラインなのです。「客観的な根拠」とは世界中の研究者が報告した多くの文献を検討して、治療法の適 切、不適切を判断したものです。
 ガイドラインを制作する作業、見直しの作業はグループで行われ、この作業に関わる人たちは公平な立場において行わなければなりません。今回のような見直 しもこの作業に関わる人たちが所属する病院や研究資金などを開示して、利害関係なく作業が透明に行われていることを示しています。

ガイドライン見直しの作業方法
 ガイドラインの作成や見直しは一定の手順によって進められます。今回の見直しはUKHCDOのインヒビター作業班がまず見直し案を作り、これをUKHCDOの執行委員会に送って意見を求めました。
 ガイドラインの内容を裏付ける学術論文の確認は、PubMedと呼ばれる米国国立医学図書館の検索サービスを用いて Hemophilia(Haemophilia)、FVIII and FIX、inhibitors、antibodies、alloantibodies、auto-antibodies、rVIIa、 Novoseven、PCC、Rituximab、managementなどというキーワードを用いて特定しました。各勧告はエビデンスレベル(これにつ いては後ほど説明します)が最も高い論文に基づいて行いました。

Recommendation - 勧告とは?
 Recommendationは日本語で勧告、推薦、提案、アドバイス、提言などのことで、「・・・というように行いましょう」という意味です。この ニュースレターでは「勧告」と呼ぶことにしましょう。「勧告」にはグレードA、グレードB、グレードCのように「勧告の強さ」つまりお勧め度の強さがあり ます。勧告の強さは、その根拠となる文献の信頼性を考慮して総合的に判断します。

 英国インヒビターガイドラインにおける文献の信頼性は米国の医療政策研究局AHCPR(Agency of Health Care Policy and Research、現在はAHRQ)が定めた4段階(I~IV)の推奨度(エビデンスレベル)によって分類されています。

エビデンスのレベル(AHCPR 1992年の分類による)
 

エビデンスレベル 内容
I a 複数の無作為化比較試験の結果を特殊な統計的方法を用いて解析し(メタアナリシス)統合したもの
 I b 少なくとも一つの無作為化比較試験から得られたもの
II a 少なくとも一つ、適切に試験内容がデザインされた非無作為化比較試験から得られたもの
II b I a, I b, II a 以外の内容で、少なくとも一つ、適切に試験内容がデザインされた準実験的研究から得られたもの
III 比較研究、相関研究、症例対照研究などの適切に内容がデザインされた非実験的記述的研究から得られたもの
IV 専門家委員会の報告や意見、あるいは権威者の臨床経験から得られたもの

 

無作為化比較試験…臨床試験において、被験者を無作為に複数の治療群に割り付けて実施し、評価を行う試験

勧告のグレード
 

グレード 勧告
A
強く勧められる
その勧告を示す試験が全体的に信頼性が高く一貫性があり、エビデンスレベルがI a またはI b のもの
B
勧められる
その勧告を示す、適切に実施された試験・研究のエビデンスレベルが II a, II b, III のもの
C
勧められるだけの根拠が明確でない
エビデンスレベルが IV のもので、直接適用できる信頼性の高い試験がない

 

今回の改訂報告では、「前ガイドラインのすべての部分が見直されているが、ほとんど改訂の必要のない部分もあり、必要に応じて前ガイドラインを参照する 必要がある。」また、「ここに述べられているレベルIII以下の比較対照試験によらないエビデンスに基づいた治療戦略、あるいは臨床上の意見が分かれてい る治療戦略に対しては将来、臨床試験を実施する必要があると思われる。」という記載があります。
 ガイドライン改訂はそのたびに全体がしっかりと見直され、そして今後の課題が提示されていく性質をもっていることが伺えます。
 




JP/HG/0617/0004