ワークショップ「血友病のトータルケア向上を考える」に参加して

荻窪病院 血液科 花房 秀次


血友病患者さんがより充実した生活を送るためには「包括的な医療」、つまりトータルケアを受けやすい環境が理想的です。トータルケアとは、止血の治療だけ でなく、整形外科医、リハビリテーション医、看護師、ケースワーカー、臨床心理士、カウンセラーなどの協力で医療チームとして提供される総合医療システム です。海外ではすでに「血友病センター」という組織が中心となって、血友病患者さんへのトータルケアを提供しているところもあります。日本ではまだ血友病 センターのようなシステムは一般的ではありませんが、近い将来日本でも、このトータルケアを血友病の患者さんたちが普通に受けられるようにしたいもので す。
 

2004年10月、タイにて『血友病患者さんのトータルケア向上を考える』という国際的なワークショップが開催されました。海外でのトータルケアの歴史や しくみを学び、日本でも応用できる点をみつけるため、このワークショップに参加し、米国やフランスの血友病センターの医師やコーディネーターナースと呼ば れる看護師の方々の役割についても話を聞きました。みなさんも血友病のトータルケアについてぜひ考えてみてください。

◆ フランスと米国の血友病センター

フランスでは、医師団体の行政当局への交渉が功を奏し、1980年後期には22の公立血友病センターが設立され、各センターに医師、コーディネーターナー ス、秘書、検査技師などが配置されています。また、米国では、血友病センターが地域によっては古くからありましたが、1975年にNHF (National Hemophilia Foundation) による交渉の結果、政府が血友病センターへの支出を開始しました。米国政府からの助成を受ける16の血友病センターには21人のコーディネーターナースが 活躍しています。現在、144の血友病センターが米国(コロンビア、プエルトリコ管区も含む地域)にはあり、NFHとその支部との連携のもと血友病の患者 さんたちへトータルケアが提供されています。

◆ コーディネーターナースの育成

米国やフランスでは、コーディネーターナースが血友病センターにおいて、血友病患者さんのトータルケアの中心(またはキーパーソン)になっているようで す。フランスでも米国でも日本の医療事情と同様に、一般的な看護師は不足しており、コーディネーターナースの育成には苦労をしてきているようです。そのよ うな中で、コーディネーターナースの育成のために、まず血友病専門医がコーディネーターナースの資質をもつ人材を発掘して、その任務を担ってもらえるよう に説得し、熱心に教育することで育成してきたそうです。
 

コーディネーターナースの主な役割


◆ 海外におけるコーディネーターナースの給与捻出


米国では、コーディネーターナースの給与捻出でも苦労している様子がうかがわれました。米国の血友病センターでは、MCHB(Maternal Child Health Services Block)やCDC (Center for Disease Control)といった団体から助成金、医師の研究費、そのほか米国特有の制度ですが、政府の助成を受けている16の血友病センターでは、薬の流通業者 から凝固因子製剤を特別価格で購入することができるため、その薬価差などからコーディネーターナースの給与を捻出しているようです。

◆ 日本におけるコーディネーターナースに対する意識

過去に日本の医師や看護師にコーディネーターナースについてのアンケート調査をしたことがあります。この結果から、日本ではまだ血友病のコーディネーターナースという概念は一般的ではありませんでした。理由としては下記のようなことが挙げられています。

コーディネーターナースという職務が認知されていない
コーディネーターナースを養成するシステムが確立していない
看護師のマンパワーが不足している
看護師にはローテーション制度があり専門性が育ちにくい
看護師の身分が1945年頃に制定された法律に縛られ、主体的横断的な看護活動を展開することが難しい
専門看護師認定制度に従って1995年から看護師の認定と育成が開始されたが、看護師の位置付けは、慢性難治性疾患のチーム医療の中で中核を担うというものではない
医師の間でチーム医療の考えがまだ浸透していない
コーディネーターナースを配置する意義がまだ十分に理解されていない


◆ 血友病センターの今後

血友病患者数は世界的にも少ないため、米国においても政府や援助団体の助成金は据え置き、あるいはむしろ減額の可能性さえあり、後継者探しなどにおいても 苦心がうかがわれました。しかし、日本においても、血友病専門医が、コーディネーターナースの資質をもつ人材を発掘し、血友病の知識の習得のための場を確 保し、そのコーディネーターナースが認められていくような環境を作っていかなくてはならないと考えます。そして、血友病患者さんにトータルケアが提供され るためには、医療従事者のみならず血友病患者さんとそのご家族にも、その牽引役としてコーディネーターナースが必要なことを訴え続けて頂く必要があるのだ と思います。
 




JP/HG/0617/0004