第7話 ビリヤード

「ケンジ、今日はとっておきのものを見せよう」
  そう言って、博士は玄関のわきにあるドアを開いた。
  このドアってどこに通じてるんだろう。なんだか、ドキドキするな。もしかして・・・、なぞの実験室だったりして。ワァー!
  ドアを開けると下へ降りる階段があった。ぼくはおそるおそる博士の後ろをついていった。階段を下りるとせまいろうかがあって、またいくつかドアがあった。博士はその中の1つのドアを開けた!
  ガチャ。
「どうじゃ、ケンジ。りっぱなビリヤードの台じゃろう」
  てんじょう近くにある小さな窓(まど)から明かりが入るだけの少しうす暗い部屋だった。部屋には大きな四角いテーブルのような台が2つあった。部屋の明かりをつけて博士はうれしそうに、台のまわりをちょこまかと動きながら、台の上にあった玉を打った。
 

パーン、パーン!
  まるでテレビで見たけんじゅうの音みたいだ。
「ケンジ、ビリヤードは知ってるかね?」

「はい、やったことはないですけど。お父さんが見てた映画(えいが)のビデオで見ました。2人で試合するんですよね。それから、お正月のテレビ番組のかくし芸大会!玉を飛ばしたりして、すごかったー」

「ふぉっ ふぉっ ふぉっ、そうか。ビリヤードはヨーロッパの貴族(きぞく)の間で始まったゲームじゃよ。技術はもちろん、玉の動きを予測することも必要とするゲームじゃ」

「へーえ、なんだかおもしろそう」

玉は全部で15個、みんな色が違っていて番号がついている。それから白い玉が1個、これには番号がない。博士はこの15個の玉を三角形のわくの中に入れ始めた。
「えーと、一番手前は1番、それから8番、7番・・・、最後に3番っと」
「前から順番に1番、2番・・・じゃないんですか?」
「ふむ、いろんなルールがあっての。これは15個の玉を全部使って行うゲームじゃ。ほかにも8個使ったり、9個だったりいろんなゲームの方法があるが、玉の並(なら)べ方はそれぞれ順番があるんじゃよ」
  わくの中に玉を全部並べ終わると、博士はそっとそのわくをはずした。そして、少しはなれたところに白い玉を置いて、長いぼうでいきおいよく白い玉をついた。すると、
  パァーン!
  玉がはれつしたような、大きな音がして15個の玉がぱっと台の上であちらこちらにちらばった。
「さぁこの白い玉を使って、小さい数の玉から順番にあてていくぞ。まずは1番の玉をケンジの立っているところの穴に落とすぞ。ほれっ」
  パン!
  今度ははじけたような音。博士の長いぼうでつかれた白い玉は、勢いよく1番の玉に当たった。すると白い玉はそこで止まって、今度は1番の玉がぼくの目の前にある台の穴に向かってころがってきた。
  ゴットン、ゴロン、ゴロン
  玉が穴に入った。思わずぼくははく手した。
「博士、すごーい。かっこいい!!」
「ふぉーっ ふぉっ ふぉっ ふぉっ、まぁこれはじょのくちじゃな。次は白い玉を2番に当てると、2番の玉がその後ろの8番に当たって、8番が穴に落ちるぞ」
「えー、そんなことができるんですか?2番の玉も8番の玉も、もしかすると白い玉もみんな穴に落こっちゃうんじゃないですか?」
「そう思うかの?まあ見ていてごらん」
  博士は得意げににやりとぼくを見た。そして、長いぼうを白い玉に向けてじっとねらいを定めた。空気がピンと張りつめた。
  パン パン ・・・ゴットン ゴロン ゴロン
  博士が予言したとおりに玉が連続して当たって、8番の玉だけが台のすみの穴に落ちた。
「うわー、博士ったら映画に出てくる人みたい」
  ぼくはすっかり博士をそんけいしてしまった。今までもそんけいしてたけど、最近、博士ったらよくリッキ-におこられているから、だんだんふつうのオジサンに見えてきちゃってた。

「ところで博士。なんで白い玉も2番の玉もいっしょに穴に落ちなかったんですか?どっちの玉も次の玉に当たったら、そこで止まっちゃって、最後に当たった8番の玉だけが動いて穴に落ちた・・・。まるで動いている玉のエネルギーが次の玉に伝わったみたい」
「おーケンジ、あいかわらず感がいいのぉ。将来が楽しみじゃ。わし以上の大研究者になるかもしれないのぉ ふぉっ ふぉっ ふぉっ」
「笑ってないで、教えてくださいよー 博士」
  博士は笑いながら、へやのドアを開けて、大きな声でリッキ-を呼んだ。部屋に入ってきたリッキ-は、首にチョウネクタイをしていた。これも映画(えいが)に出ていた人と同じだ。リッキ-ったら準備がいいな。
「リッキ-、ケンジに玉の打ち方を教えてやっとくれ」
「まかせて、博士。ケンジ、このぼうを持ってみて」
「えーっ ビリヤードを犬に習うのー!」
  はっ しまった。リッキ-がおこっちゃった。すっごいふくれて、ぼくをにらんでる。。。
「・・・ごめん リッキ-、つい犬だなんて言っちゃった。もう言いません。ごめんなさい。リッキ-さま~」
  ひたすらあやまって、リッキ-に玉の打ち方を教わった。
  身長くらいあるこのぼうは「キュー」っていうんだって。これで白い玉をつく。
  左手をぐぅっと前にのばして、親指の上にぼうの先をのせて・・・、そして白い玉をよーくねらって、右手でぼうをおし出す!
「えいっ!」
  かすっと気のぬけたような音がして、白い玉の上をぼうの先がすべった。
「あっれー、こんな近いのになんで?」
「だいじょうぶ。すぐにちゃんとつけるようになるよ。あんまり力を入れないで、かーるくね」
  リッキ-の言うように、何度か練習してうまくできるようになった。

「さぁケンジ、いよいよ本番じゃ。白い玉をほかの玉に当ててみよう」
  台の上に白い玉と、少しはなれたところに1番の玉を置いた。
「まずはそっと白い玉をついてごらん」
  博士の言うようにそっとついてみた。 ・・・コン。
「あれ?2つともころがっていっちゃった」
「そうじゃな 次は少し勢いよくついてごらん」
  パン!
「あ、こんどは白い玉が止まって、1番だけころがっていった」
  ぼくはおもしろくなって、こんどは3つの玉を1列にならべて打った。そして4つ、5つ・・・。ほんとにぼくの力が次々と玉に伝わっていってるみたい。
「ケンジが思ったとおりなんじゃよ。ケンジの力が1番目の玉へ伝わり、その次の玉が前の玉から力をもらって次の玉へ、そしてまたその次へ伝えるんじゃ」
「へー そっかー」
「ケンジ、因子(いんし)の話をおぼえとるかの?この玉のように番号がついた、12種類の血を固める因子じゃ」
「はい、おぼえてます。えっと、血を固める隊員で、6番がなくて、ローマ数字で書くんですよね」
「そうじゃ そうじゃ ではこれから、とっておきのわざを見せるぞ。リッキ-玉をジグザグに置いておくれ」

 

 リッキ-は6個の玉を2列に、お互いに重ならないように置いた。
「準備OKです。博士」
「よーし 見とれよ」
  博士はうでまくりをして、前よりしんけんに最初の玉にねらいを定めた。
「ほれっ」
  すると一直線にならんでいないのに、玉がジグザグに当たっていって、最後の玉が穴に落ちた。
  ゴットン ゴロン ゴロン

「えーっ!! すっごーい博士!」
「ふぉーっ ふぉっ ふぉっ」
「さっきと同じじゃよ。玉と玉が当たる時の角度や、打つ強さを考えればこうなるんじゃ」
「12種類の血を固める因子で考えるとこういうことじゃ。つまり、自分の役わりを次々伝えていって、最後に血管の穴をふさぐという仕事が完成するんじゃよ。もし一つでもこの玉がなかったらどうなる?ケンジ」

「途中で止まります。えっと、最後の玉まで力が伝わらない・・・」
「そうじゃ、玉が一つでもなかったら、最後の玉が穴には落ちない。つまり、血を固める因子の仕事が血管の穴をふさぐ、というところまでいかずに、とちゅうで止まってしまうんじゃ。ケンジの注射、つまり因子をおぎなうというのは、玉のながれが止まることのないようにするためなんじゃな」


「そっか!リッキー、ぼくにもさっきの博士みたいに玉をならべて!」
「ケンジにはまだむりだよー」
「やってってばっ!」