第6話 とくせい野菜ジュース

最近、ぼくは博士(はかせ)のところに行くのがとても楽しみになってきた。リッキーのおしゃべりにもすっかりなれたし、博士はぼくをこどもあつかいしない。それにいつも「なにか」が起こるんだ。

 今日はそうりつ記念日で学校がお休みだったので朝から博士の家に遊びに行くと、博士が家のまわりをリッキーに追いかけられてぐるぐる回っていた。
「博士ー!ほら、しっかりー!ワンワン」
「わかっとる!そんなにほえるな、リッキー」
「スピード落とさないで、しっかり走って!」
「ちゃんと走っとるぞー」
 何してるんだろ。何かのバツゲームかな?しばらく博士とリッキーを見ていたら、ちょうど3周目くらいで博士が走るのをやめて地面の上に大の字になった。
「ふぁー、もうだめじゃ。今日はこれまでじゃ」
「まだあと5周も残ってますよ。もう、博士ったらー」

「どうしたの?リッキー」
「ケンジ、聞いてよ、博士ったらね。健康のために毎日、家の周りを20周走るぞって言ったのに、ちゃんと走ったのは1日だけでさ。2日目はこしが痛(いた)いからってお休み。3日目はちょっと走って終わり、昨日は天気が悪いからって3周しか走らないし、今日だってなんか理由つけて休もうとしてるから、ぼくが外に追い出したんだよ」
「なーんだそうだったの。ぼくてっきり、博士がリッキーにバツゲームさせられてるのかと思った。でも今日は天気がいいから、走って気持ちがよかったでしょう、博士」
「まったくバツゲームみたいなもんじゃよ。まあ、確かに気持ちはいいが、いつからこんなに自分の体が重くなったんじゃかのぉ。ちょっと走っただけで、すぐ息がきれてしまうんじゃ」
ゆっくりと起き上がりながら、博士が言った。
「博士、自分で言い出したんでしょ。毎日走るって!ぼくは博士に協力してるのに」
「ふぉっ ふぉっ ふぉっ すまん、すまん。明日はちゃんと走るから、リッキー。きげんを直しておくれ」
 リッキーはぷんぷんおこりながら、タオルをくわえて家の中に入った。でも、リッキ-ったらおこっているのに、あせをかいたままだとかぜをひくとか、着がえたものはせんたく物のカゴに入れてくださいとか、まるでぼくのお母さんみたいに博士の世話(せわ)をやいてる。

 しばらくして、博士が鼻歌(はなうた)を歌いながらシャワーから出てきた。
「おー、そうかいじゃのー。さて、スペシャルドリンクを作るかな。あせをかいた後は栄養と水分をほきゅうせんとな。ケンジ、冷蔵庫(れいぞうこ)から、にんじん、こまつな、ブロッコリーを出しとくれ」
「はーい。野菜は体にいいから、お母さんがいつも食べろ、食べろっていうんですよね。でもぼくちょっとにがてなんです」
「そうか。実はわしもなんじゃ。リッキーにいつもおこられとる。自分で作るとついつい好きなものが多くなってな。しかし、もうわしもそう若(わか)くないから、栄養のバランスを考えないといつまでも健康でいられんからな。食事で栄養が足らないと思った時はこうして、ジュースにして足らない分をおぎなうんじゃ。ケンジ、グレープフルーツもとっておくれ。それとうずらの卵もじゃ」
 ぼくは言われた野菜を出し、水で洗(あら)って博士にわたした。博士はそれを大まかにざくざくと包丁(ほうちょう)で切って、ミキサーに入れた。

「今日はビタミンA、B、C、Eがたっぷり入ったジュースじゃ。体の中にはいると細胞(さいぼう)が元気になって老化(ろうか)を防止してくれるんじゃ。そうじゃ、ケンジも時々足らないものをおぎなっているじゃろ?」

「え? あー、うー、ぼくの注射(ちゅうしゃ)・・・」

「そうじゃよ。ケンジがする注射は、血を固める因子(いんし)の中で、ケンジの血に足らない因子を補充(ほじゅう)しているんじゃよ。ケンジの注射には何が入っているか知っとるかね?」

「えーっと、ぼくは血友病(けつゆうびょう)Aの人がする薬だって・・・」

「血友病Aというと第VIII因子(だいはちいんし)が足らないんじゃな。第VIII因子が足らない血友病を「血友病A(けつゆうびょうえー)」と言うんじゃ」
「第VIII因子・・・。この前、教えてもらった「血を固める任務(にんむ)の部隊(ぶたい)」の8番目ですか?」
「そうじゃ、そうじゃ。血(けっ)しょうの中にある、血を固めるための因子の1つじゃ。血友病Aの人は第VIII因子が入った薬を注射する。そして第IX因子(だいきゅういんし)が足らない血友病は「血友病B(けつゆうびょうびー)」と呼(よ)んでおる。血友病Bの人は第IX因子の入った薬を注射するんじゃよ」
「ぼくは第VIII因子(だいはちいんし)が足らないのか・・・。それじゃあ博士、第VIII因子や第IX因子じゃないのほかの因子が足りないときは、血友病Cとか血友病Dとか言うんですか?」
「いや、いや、そうは言わんよ。おっと、忘(わす)れるところじゃった。ケンジ、このゴマときなこをスプーンに1杯(ぱい)ずつ入れておくれ。ゴマはすってから入れるんじゃぞ」

 ぼくは初めてすりばちでゴマをすった。博士にゴマのすり方を教わったけど、けっこうおもしろかった。ゴマをすったなんて、お母さんに言ったらおどろくかな?それとも、おせじを言ったのとカンちがいするかも。もしかして「ほかの家で手伝うのなら、うちでもしなさーい!」なんて言われるかもしれないから、ナイショにしておこう。
 最後にはちみつを少しいれて、ミキサーのスイッチを入れた。野菜の形があっという間になくなって、ジュースになった。これってどんな味がするんだろう。

「博士、健康にいいジュースなんて、お店で売ってるのにどうして自分で作るんですか?」

「かんたんなのもいいが、こうやって野菜のにおいをひとつひとつかぎながら作ると、体がどんどん元気になりそうで気分がいいんじゃよ。ケンジもおかしばかり食べていないで、ちゃんと野菜も食べるんじゃぞ。それに歯でしっかりとかまないと、あごも成長せんぞ」
「はい、はい、はい、博士!とくせいジュースの完成ですね。飲んでみましょうよ」
 3つのコップにジュースを入れて、「リッキーも飲もうよ」とさそったけど、リッキーは首を横にふった。まだおこってるのかな?
 そして、ぼくと博士はジュースをゴクリ・・・、
「うわっー、まずっ! 博士! これ何!なんか魚の味がする~。魚なんて入れたんですか?博士!」
「うぉっ ゴッホ ゴッホ。ひどい味じゃ。どうしたんじゃ、この間はおいしかったのに。へんじゃのぉ」
 ふとリッキーを見ると、にやりと笑って何かを手に持っている。すると、博士が

「リッキー!それは後で食べようと思ってとっておいたうなぎじゃないか!」
「だーって博士、うなぎもビタミンがいっぱいって言ってたでしょー」

このあと、家の中をにげまわるリッキーをつかまえようと、博士とぼくはひっしになって追いかけまわした。さすがリッキーは犬だから、すばしっこくてぜんぜんつかまえられなかった。あせだくになって結局すごい運動をしてしまった。