第3話 穴(あな)だらけのホース

日曜日、ぼくのケイタイにメールが入った。博士(はかせ)からだ。
「本日晴天、洗車(せんしゃ)、来られたし。ふぉっ、ふぉっ」
 って、何このメール? 『車洗(あら)うから手伝え』ってこと? 『ふぉっ、ふぉっ』だって。メールにまで、笑い声入れることないのに。

 ぼくは博士の家に向かった。手伝いはめんどうくさいけど、いつもとちがう日曜日になりそうで、ちょっとわくわくしている。リッキーだったっけ? しゃべるんだよなぁ。でも、今日はおどろかないぞ!
 門を開け、のびほうだいの草をかきわけて、ようやくげんかんにたどり着いた。ベルを鳴らそうとすると、とつぜんドアが開いた。
「いらっしゃーい、ケンジ。今日はいい天気だから、博士がはりきってるよ!」
「うわぁ! リ、リッキー!」
 また、びっくりしちゃったよ。なんでドアたたく前にわかるの? ことばといっしょにちょうのうりょくもついたのかな…? あ、そうだった、リッキーは犬だからにおいでわかったんだ。なんかもうわかんなくなっちゃう!

 リッキーに案内されて、家のわきの車庫に行った。博士はちょうどへびとかくとうしているように、長いホースをほどくのに手こずっていた。
「よっ、ほっ、ほれっ」
「博士ー。こんにちは」
「おお、ケンジ。すまんなー。今日は天気もいいし、わしの愛車(あいしゃ)を洗うのを手伝ってくれんかね。ほっ、いよっと!」
 あははは。博士ったら、ホースとおどりをおどってるみたい。
「おお。やっとほどけたぞ、ケンジ。そっちのホースの先を水道のじゃぐちにとりつけてくれ。しっかりとな。はずれんように」
「はーい。博士、つけましたよ。水、出しますよー」
「よーし」
 

水道のじゃぐちをひねると、ホースのとちゅうから水がちょぼちょぼしみだしてきた。

「博士。ホースに穴(あな)があいてるみたいですよ。水がもれてまーす」
「そうか、そりゃふさがにゃいかんな。リッキー、テープをもってきてくれんか?」
「はーい」

 リッキーは穴があいている場所に、持ってきたテープをくるくると巻きつけた。すると、
「ケンジ、出血(しゅっけつ)した血液(けつえき)はどうやって止まるか知ってるかい?」
 テープでふさいだホースをちらりと見て博士が言った。

「えーと…、血を固める成分(せいぶん)が…」
「ケンジ、この間のきずはどうなってるかね?」
「はい。もう、かさぶたも小さくなりました…。あ!かさぶたができるんですか? 血が流れているところに? 血管(けっかん)っていうんだっけ? えー、うっそぉー!?」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。なかなかいいところを考えたぞ、ケンジ。このホースは穴があいたら、テープをはればいいが、体の中の血管はそうはいかん。そこでかつやくするのが、血液の成分じゃ。」
 博士はホースの先から出る水をぼくに向けた。その水はしばらく使っていないじゃぐちから出たせいか、とうめいではなく茶色くにごっていた。

「このホースを血管、この水を血液だとする。この水はじゃ口のサビが出とるから、茶色く色がついて見えるじゃろ。血液も赤い成分がたくさん入っとるから、赤く見えるんじゃ。」

「この間、博士が血液の中にはいろいろな成分が入っているって…」
「そうじゃ。酸素(さんそ)を運ぶ赤血球(せっけっきゅう)。病原(びょうげん)きんをこうげきする白血球(はっけっきゅう)。栄養(えいよう)を運んだり、血液を固まらせる成分が入っている血(けっ)しょう。そして、きずぐちをふさぐ助けをする血小板(けっしょうばん)じゃ」

「赤血球(せっけっきゅう)、白血球(はっけっきゅう)、血小板(けっしょうばん)…、ええっと。あ、博士また穴があいてる! リッキー、 テープ、テープ!」
 リッキーとぼくはあわてて穴をふさいだ。


「そうそう。血管にきずができると、血小板(けっしょうばん)が集まってきてきずをふさごうとする。今のケンジとリッキーじゃな。そして、血 (けっ)しょうの中の血を固める成分が働くと、フィブリンというあみができて、この血小板(けっしょうばん)にからみつく。これでしっかり穴がふさがるわ けじゃ。どうじゃ、そのテープをちょっとはがしてごらん」

 ぼくはゆっくりと穴をふさいだテープをはがしてみた。すると、テープに細かいさびがくっついていた。
「こうして血管にかさぶたができて、血がもれなくなるんじゃ。やがてこのかさぶたの外側に新しい血管のかべができて、修理(しゅうり)かんりょう。かさぶたも、ほれ、ケンジのひざこぞうみたいにだんだんとなくなってしまうんじゃ」
「へーぇ。血管って血液で修理するんだ。あ、あー!博士、ここも、そっちも穴が!リッキー、テープ!うわーっ、博士そこおさえて!あそこも!」
 ブワッーーー!
 みんなであわてて穴をふさごうとホースをにぎりしめたせいで、じゃぐちからホースがはずれ、いきおいよく水がふき出した。ぼくたちはおもいっきりびしょぬれになった。けっきょくホースは使えず、バケツリレーで水を運ぶことになった。おかげでぼくらは、へとへと。
「博士ー、次に車を洗う時は新しいホース、買っておいてくださいね~。もー、ぼくダメ。